「 古典戯曲の舞台 裏。リーディング公演 」 戯曲ワークショップ

Marie Arishiro on Płyty and Kucharki

Płyty

クリスティナ・ウニエホフスカ『レコード』のための美術・小道具の提案

この戯曲の中で重要な役割を果たすレコードを、私は白い羽根を使って表現したいと思います。

レコードの中には第二次世界大戦時の殺戮の音が録音されています。アフリカ戦線の最終戦であるトブルクの戦いの銃撃線、砲撃された巡洋艦のレーダーの響き、ドレスデン、ワルシャワ、ロンドン、キエフの地下に埋もれた人々の息の音、うめき、叫び…。それらはポーランド人にとってなお生々しい戦争の集団的記憶だということをこの戯曲を通じて知りました。
 の戦争の戦慄を録音した黒く、堅く、薄い素材としてのレコードを、物質的に真逆の特徴を持つ軽やかで白く柔らかな羽根で表します。
 羽根はまた、レコードが記録する死の叫びや音とも対極にあります。羽根は生き物の温もりを感じさせ、空気をはらみ、重く暗い記憶とは異質の、明るく軽やかな光を感じさせます。そして、さらに思いを致すのであれば、この羽根もまた、死した動物からとられたものだということも。
 主人公である「彼女」が録音されている内容を説明しながらレコードをかける場面で、あたかもそれがレコードであるかのように白い羽根を両手にささげて、プレイヤーにかけます。照明を羽根に当て、その白さと明るさ、柔らかさを際立たせ、周囲の闇と対立させます。アンテクがレコードをもぎ取って割ってしまうときは、羽根が一面に飛び散ります。
 「レコード」の物質的特徴と、録音内容の両方に対置されるものとして、白い羽根を使うことで、この戯曲のはらむ不気味さと恐ろしさを逆説的に観客に感じてもらえると思います。


Kucharki

ノラ・シュチェバンスカ『女料理人』について
この戯曲では、世界的に有名な三つの戯曲が引用・翻案され、それぞれある破滅または栄光を迎えて終わります。
女の領域である台所からは、寝室までが見渡せるという。それは、政治の裏舞台までも見えるということです。
しかし台所の女たちに権力はありません。
台所の“少女”はポリュネイケースとハムレットに愛されながら、明確な自我を持ち得ず、自分をつかみとることができない。ポリュネイケースを葬った勇気も愛も、支配者であるアンティゴネーに奪われます。アンティゴネーは歴史をつくり、男たちとともに歴史の一部となります。女であるがゆえに特異な地位を与えられて。そして後世の作家たちは、アンティゴネーに法律や権力、秩序への抵抗や正義に対する態度、精神的な価値への信仰を見続けていきます。
女の間にもある格差、権力による、地位による、経済力による、・・・それか存在するという事実に目を向ける必要があります。
ハムレットから少女への愛は、オフィーリアというより強い人格、重要な地位をもった女性への愛が生み出す齟齬や空白の吐け口のように補完的に見えます。
『ゴドーを待ちながら』では結婚式が描かれますが、結婚行進曲は少女も含めた誰をも死の灰の宿命のもとに召還する行進曲となり、愛のテーマを飲み込みます。


有代麻里絵 プロフィール – 2008年より大野慶人、上杉満代、室伏鴻に学ぶ。2015年より振付けソロ作品『際―きわ―』、『オルフェウスの鏡』(TPAM showcase 2016)、『左に虹―ガーゴイルたち―』(2019)等のほか、フランス人画家Marie Drouet との共同制作『Drawing, Dancing, Trembling』(2017)がある。

Marie Arishiro – since 2008, participant in Yoshito Ohno butoh workshop, in Mitsuyo Uesugi and in the Ko Murobushi workshop. Choreographed solo works including “On the Brink” (2015), “The Mirror of Orpheus” (TPAM Showcase 2016), “The Rainbow in <Left> ―the gargoyles―” (2019), a collaboration performance with Marie Drouet “Drawing, Dancing, Trembling” and others.


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Haruka Fujii on the objects chosen for the performative reading of Płyty

「レコード」の舞台美術・小道具に選んだもの りんご、造花 ・選んだ理由 りんご:生きているものの象徴として 造花:生きていないものの象徴として 主人公の、戦争そのものが彼女のアイデンティティーとなり、現在を生きることができない彼女の精神、しかしそれとは関係なく現在を生きている彼女、その二つを表すために、りんごと造花を選びました。 

Haruka Fujii on Kucharki

「女料理人」第3幕について サミュエル・ベケット「ゴドーを待ちながら」をモチーフにしたストーリーでありながら、登場人物たちは次々に結婚していく。何も起きないことが描かれていたはずが、女性の登場により結婚というイベントが描かれている。 結婚は不条理である、という一つのメッセージ、ならびに、女性には不条理が理解できないと思われているのではないか、というアイロニー(何も起きない訳ではなくなったため)を感じた。 


藤井治香 演劇ユニットle 9 juin主宰。劇作家、演出家、役者。2018年、東京バビロン演劇祭 にて「娘、父、私たち」が優秀未来賞、オーディエンス賞を受賞。 

Haruka Fujii – Producer of theatrical unit “le 9 juin”; writer, director, actress. Winner of numerous prizes, among others – Audience Award for “Daughter, Father, Us” in Tokyo Babylon Theatre Festival 2018.



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